From 282ed23a99979e704ce6b1064c8a87b57df70640 Mon Sep 17 00:00:00 2001 From: woodyZootopia Date: Tue, 24 Aug 2021 12:03:52 +0900 Subject: [PATCH] =?UTF-8?q?=E7=BF=BB=E8=A8=B3=E3=82=92=E3=81=95=E3=82=89?= =?UTF-8?q?=E3=81=AB=E6=A0=A1=E6=AD=A3?= MIME-Version: 1.0 Content-Type: text/plain; charset=UTF-8 Content-Transfer-Encoding: 8bit --- .../09-paging-implementation/index.ja.md | 102 +++++++++--------- 1 file changed, 50 insertions(+), 52 deletions(-) diff --git a/blog/content/edition-2/posts/09-paging-implementation/index.ja.md b/blog/content/edition-2/posts/09-paging-implementation/index.ja.md index fb70e770..791a8f4f 100644 --- a/blog/content/edition-2/posts/09-paging-implementation/index.ja.md +++ b/blog/content/edition-2/posts/09-paging-implementation/index.ja.md @@ -40,7 +40,7 @@ translators = ["woodyZootopia"] ![An example 4-level page hierarchy with each page table shown in physical memory](../paging-introduction/x86_64-page-table-translation.svg) -ここで重要なのは、それぞれのページテーブルのエントリは次のテーブルの**物理**アドレスであるということです。これにより、それらのアドレスに対しても変換することを避けられます。もしこの変換が行われたとしたら、性能的にも良くないですし、容易に変換の無限ループに陥りかねません。 +ここで重要なのは、それぞれのページテーブルのエントリは次のテーブルの**物理**アドレスであるということです。これにより、それらのアドレスに対しては変換せずにすみます。もしこの変換が行われたとしたら、性能的にも良くないですし、容易に変換の無限ループに陥りかねません。 問題は、私達のカーネル自体も仮想アドレスの上で動いているため、カーネルから直接物理アドレスにアクセスすることができないということです。例えば、アドレス`4KiB`にアクセスしたとき、私達は**仮想**アドレス`4KiB`にアクセスしているのであって、レベル4ページテーブルが格納されている**物理**アドレス`4KiB`にアクセスしているのではありません。物理アドレス`4KiB`にアクセスしたいなら、それに対応づけられている何らかの仮想アドレスを通じてのみ可能です。 @@ -81,7 +81,7 @@ translators = ["woodyZootopia"] この方法の欠点は、物理メモリへの対応付けを格納するために、追加でページテーブルが必要になるところです。これらのページテーブルもどこかに格納されなければならず、したがって物理メモリの一部を占有することになります。これはメモリの量が少ないデバイスにおいては問題となりえます。 -しかし、x86_64においては、通常の4KiBサイズのページに代わって、大きさ2MiBの[huge page][huge pages]を対応付けに使うことができます。こうすれば、例えば32GiBの物理メモリを対応付けるのに、レベル3テーブル1個とレベル2テーブル32個があればいいので、たったの132KiBしか必要ではありません。huge pagesは、トランスレーション・ルックアサイド・バッファ (TLB) のエントリをあまり使わないので、キャッシュ的にも効率が良いです。 +しかし、x86_64においては、通常の4KiBサイズのページに代わって、大きさ2MiBの[huge page][huge pages]を対応付けに使うことができます。こうすれば、例えば32GiBの物理メモリを対応付けるのにはレベル3テーブル1個とレベル2テーブル32個があればいいので、たったの132KiBしか必要ではありません。huge pagesは、トランスレーション・ルックアサイド・バッファ (TLB) のエントリをあまり使わないので、キャッシュ的にも効率が良いです。 [huge pages]: https://en.wikipedia.org/wiki/Page_%28computer_memory%29#Multiple_page_sizes @@ -91,12 +91,12 @@ translators = ["woodyZootopia"] ![A virtual and a physical address space with an identity mapped level 1 table, which maps its 0th entry to the level 2 table frame, thereby mapping that frame to page with address 0](temporarily-mapped-page-tables.svg) -この図におけるレベル1テーブルは仮想アドレス空間の最初の2MiBを制御しています。なぜなら、このテーブルにはCR3レジスタから始めて、レベル4、3、2のページテーブルの0番目のエントリを辿ることで到達できるからです。8番目のエントリは、アドレス`32 KiB`の仮想アドレスページをアドレス`32 KiB`の物理アドレスページに対応付けるので、レベル1テーブル自体を恒等対応させています。この図ではその恒等対応を`32 KiB`のところの横向きの(茶色の)矢印で表しています。 +この図におけるレベル1テーブルは仮想アドレス空間の最初の2MiBを制御しています。なぜなら、このテーブルにはCR3レジスタから始めて、レベル4、3、2のページテーブルの0番目のエントリを辿ることで到達できるからです。その8番目のエントリは、アドレス`32 KiB`の仮想アドレスページをアドレス`32 KiB`の物理アドレスページに対応付けるので、レベル1テーブル自体を恒等対応させています。この図ではその恒等対応を`32 KiB`のところの横向きの(茶色の)矢印で表しています。 恒等対応させたレベル1テーブルに書き込むことによって、カーネルは最大511個の一時的な対応を作ることができます(512から、恒等対応に必要な1つを除く)。上の例では、カーネルは2つの一時的な対応を作りました: - レベル1テーブルの0番目のエントリをアドレス`24 KiB`のフレームに対応付けることで、破線の矢印で示されているように`0 KiB`の仮想ページからレベル2ページテーブルの物理フレームへの一時的対応付けを行いました。 -- レベル1テーブルの9番目のエントリをアドレス`4 KiB`のフレームに対応付けることで、破線の矢印で示されているように`36 KiB`の仮想ページからレベル4ページテーブルの物理フレームへの一時的対応付を行いました。 +- レベル1テーブルの9番目のエントリをアドレス`4 KiB`のフレームに対応付けることで、破線の矢印で示されているように`36 KiB`の仮想ページからレベル4ページテーブルの物理フレームへの一時的対応付けを行いました。 これで、カーネルは`0 KiB`に書き込むことによってレベル2ページテーブルに、`36 KiB`に書き込むことによってレベル4ページテーブルにアクセスできるようになりました。 @@ -107,7 +107,7 @@ translators = ["woodyZootopia"] - そのエントリに対応付けられている仮想ページを通じて、対象のフレームにアクセスする。 - エントリを未使用に戻すことで、一時的対応付けを削除する。 -この方法では、同じ512個の下層ページを対応付けを作成するために再利用するため、物理メモリは4KiBしか必要としません。欠点としては、やや面倒であるということが言えるでしょう。特に、新しい対応付けを作る際に複数のページテーブルの変更が必要になるかもしれず、上の手続きを複数回繰り返さなくてはならないかもしれません。 +この方法では、同じ512個の仮想ページを対応付けを作成するために再利用するため、物理メモリは4KiBしか必要としません。欠点としては、やや面倒であるということが言えるでしょう。特に、新しい対応付けを作る際に複数のページテーブルの変更が必要になるかもしれず、上の手続きを複数回繰り返さなくてはならないかもしれません。 ### 再帰的ページテーブル @@ -121,7 +121,7 @@ translators = ["woodyZootopia"] [example at the beginning of this post]: #peziteburuniakusesusuru -CPUにこのエントリを辿らせるようにすると、レベル3テーブルではなく、そのレベル4テーブルに再び到達します。これは再帰的関数(自らを呼び出す関数)に似ているので、**再帰的ページテーブル**と呼ばれます。レベル4テーブルのすべてのエントリはレベル3テーブルを指しているとCPUは思っているので、CPUはいまレベル4テーブルをレベル3テーブルとして扱っているということに注目してください。これがうまく行くのは、x86_64においてはすべてのレベルのテーブルが全く同じレイアウトを持っているためです。 +CPUにこのエントリを辿らせるようにすると、レベル3テーブルではなく、そのレベル4テーブルに再び到達します。これは再帰関数(自らを呼び出す関数)に似ているので、**再帰的ページテーブル** (recursive page table) と呼ばれます。CPUはレベル4テーブルのすべてのエントリはレベル3テーブルを指していると思っているので、CPUはいまレベル4テーブルをレベル3テーブルとして扱っているということに注目してください。これがうまく行くのは、x86_64においてはすべてのレベルのテーブルが全く同じレイアウトを持っているためです。 実際に変換を始める前に、この再帰エントリを1回以上たどることで、CPUのたどる階層の数を短くできます。例えば、一度再帰エントリを辿ったあとでレベル3テーブルに進むと、CPUはレベル3テーブルをレベル2テーブルだと思い込みます。同様に、レベル2テーブルをレベル1テーブルだと、レベル1テーブルを対応付けられた(物理)フレームだと思います。CPUがこれを物理フレームだと思っているということは、レベル1ページテーブルを読み書きできるということを意味します。下の図はこの5回の変換ステップを示しています: @@ -166,8 +166,7 @@ CPUにこのエントリを辿らせるようにすると、レベル3テーブ ![Bits 0–12 are the offset into the level l table frame and bits 12–21, bits 21–30, bits 30–39 and bits 39–48 are the index of the recursive entry](table-indices-from-address-recursive-level-4.svg) -We can now calculate virtual addresses for the page tables of all four levels. We can even calculate an address that points exactly to a specific page table entry by multiplying its index by 8, the size of a page table entry. -これで、4つの階層すべてのページテーブルの仮想アドレスを計算できます。 +これで、4つの階層すべてのページテーブルの仮想アドレスを計算できます。また、インデクスをページテーブルエントリのサイズ倍、つまり8倍することによって、特定のページテーブルエントリを指すアドレスを計算できます。 下の表は、それぞれの種類のフレームにアクセスするためのアドレス構造をまとめたものです: @@ -183,7 +182,7 @@ We can now calculate virtual addresses for the page tables of all four levels. W ただし、`AAA`がレベル4インデクス、`BBB`がレベル3インデクス、`CCC`がレベル2インデクス、`DDD`が対応付けられたフレームのレベル1インデクス、`EEE`がオフセットです。`RRR`が再帰エントリのインデクスです。インデクス(3ケタ)をオフセット(4ケタ)に変換するときは、8倍(ページテーブルエントリのサイズ倍)しています。 -`SSSSS`は符号拡張ビットです、すなわち47番目のビットのコピーです。これはx86_64におけるアドレスの特殊な要求の一つです。これは[前回の記事][sign extension]で説明しました。 +`SSSSS`は符号拡張ビットで、すなわち47番目のビットのコピーです。これはx86_64におけるアドレスの特殊な要求の一つです。これは[前回の記事][sign extension]で説明しました。 [sign extension]: @/edition-2/posts/08-paging-introduction/index.ja.md#x86-64niokerupezingu @@ -220,8 +219,7 @@ let level_1_table_addr = 上のコードは、レベル4エントリの最後(インデクス`0o777`すなわち511)が再帰対応していると仮定しています。この対応はまだ行っていないので、この仮定は正しくありません。以下でブートローダに再帰対応付けを設定させる方法を説明します。 -Alternatively to performing the bitwise operations by hand, you can use the [`RecursivePageTable`] type of the `x86_64` crate, which provides safe abstractions for various page table operations. For example, the code below shows how to translate a virtual address to its mapped physical address: -ビット演算を自前で行う代わりに、`x86_64`クレートの[`RecursivePageTable`]型を使うこともできます。これは様々なページ操作の安全な抽象化を提供します。例えば、以下のコードは仮想アドレスを対応付けられた物理アドレスに変換する方法を示しています +ビット演算を自前で行う代わりに、`x86_64`クレートの[`RecursivePageTable`]型を使うこともできます。これは様々なページ操作の安全な抽象化を提供します。例えば、以下のコードは仮想アドレスを対応付けられた物理アドレスに変換する方法を示しています。 [`RecursivePageTable`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/struct.RecursivePageTable.html @@ -266,18 +264,18 @@ frame.map(|frame| frame.start_address() + u64::from(addr.page_offset())) [_Remap The Kernel_]: https://os.phil-opp.com/remap-the-kernel/#overview -## ブートローダのサポート +## ブートローダによる補助 これらのアプローチはすべて、準備のためにページテーブルに対する修正が必要になります。例えば、物理メモリへの対応付けを作ったり、レベル4テーブルのエントリを再帰的に対応付けたりなどです。問題は、これらの必要な対応付けを作るためには、すでにページテーブルにアクセスできるようになっていなければいけないということです。 -これが意味するのは、私達のカーネルが使うページテーブルを作っている、ブートローダの手助けが必要になるということです。ブートローダはページテーブルへのアクセスができますから、私達の必要とするどんな対応付けも作れます。`bootloader`クレートは上の2つのアプローチをどちらもサポートしており、現在の実装においては[cargoのfeatures][cargo features]を使ってこれらをコントロールします。 +これが意味するのは、私達のカーネルが使うページテーブルを作っている、ブートローダの手助けが必要になるということです。ブートローダはページテーブルにアクセスできますから、私達の必要とするどんな対応付けも作れます。`bootloader`クレートは上の2つのアプローチをどちらもサポートしており、現在の実装においては[cargoのfeatures][cargo features]を使ってこれらをコントロールします。 [cargo features]: https://doc.rust-lang.org/cargo/reference/features.html#the-features-section - `map_physical_memory` featureを使うと、全物理メモリを仮想アドレス空間のどこかに対応付けます。そのため、カーネルはすべての物理メモリにアクセスでき、[上で述べた方法に従って物理メモリ全体を対応付ける](#wu-li-memoriquan-ti-wodui-ying-fu-keru)ことができます。 - `recursive_page_table` featureでは、ブートローダはレベル4ページテーブルのエントリを再帰的に対応付けます。これによりカーネルは[再帰的ページテーブル](#zai-gui-de-peziteburu)で述べた方法に従ってページテーブルにアクセスすることができます。 -私達のカーネルには、シンプルでプラットフォーム非依存でより強力である(ページテーブルのフレームでないメモリにもアクセスできる)1つ目の方法を取ることにします。必要なブートローダの機能 (feature) を有効化するために、`map_physical_memory` featureを`bootloader`のdependencyに追加します。 +私達のカーネルには、シンプルでプラットフォーム非依存でより強力である(ページテーブルのフレームでないメモリにもアクセスできるので)1つ目の方法を採ることにします。必要なブートローダの機能 (feature) を有効化するために、`map_physical_memory` featureを`bootloader`のdependencyに追加します。 ```toml @@ -285,7 +283,7 @@ frame.map(|frame| frame.start_address() + u64::from(addr.page_offset())) bootloader = { version = "0.9.8", features = ["map_physical_memory"]} ``` -この機能を有効化すると、ブートローダは物理メモリの全体を、とある未使用の仮想アドレス空間に対応付けます。この仮想アドレスの範囲をカーネルに伝えるために、ブートローダは**boot information**構造体を渡します。 +この機能を有効化すると、ブートローダは物理メモリの全体を、ある未使用の仮想アドレス空間に対応付けます。この仮想アドレスの範囲をカーネルに伝えるために、ブートローダは**boot information**構造体を渡します。 ### Boot Information @@ -295,7 +293,7 @@ bootloader = { version = "0.9.8", features = ["map_physical_memory"]} [`BootInfo`]: https://docs.rs/bootloader/0.9.3/bootloader/bootinfo/struct.BootInfo.html [semver-incompatible]: https://doc.rust-lang.org/stable/cargo/reference/specifying-dependencies.html#caret-requirements -- `memory_map`フィールドは、利用可能な物理メモリの情報の概要を保持しています。システムの利用可能な物理メモリがどのくらいかや、どのメモリ領域がVGAハードウェアのようなデバイスのために予約されているかをカーネルに伝えます。これらのメモリ対応付けはBIOSやUEFIファームウェアからブートのごく初期に限り取得することが可能です。そのため、これらをカーネルが後で取得することはできないので、ブートローダによって提供する必要があるわけです。このメモリ対応付けは後で必要となります。 +- `memory_map`フィールドは、利用可能な物理メモリの情報の概要を保持しています。システムの利用可能な物理メモリがどのくらいかや、どのメモリ領域がVGAハードウェアのようなデバイスのために予約されているかをカーネルに伝えます。これらのメモリ対応付けはBIOSやUEFIファームウェアから取得できますが、それが可能なのはブートのごく初期に限られます。そのため、これらをカーネルが後で取得することはできないので、ブートローダによって提供する必要があるわけです。このメモリ対応付けは後で必要となります。 - `physical_memory_offset`は、物理メモリの対応付けの始まっている仮想アドレスです。このオフセットを物理アドレスに追加することによって、対応する仮想アドレスを得られます。これによって、カーネルから任意の物理アドレスにアクセスできます。 ブートローダは`BootInfo`構造体を`_start`関数の`&'static BootInfo`引数という形でカーネルに渡します。この引数は私達の関数ではまだ宣言していなかったので追加します: @@ -311,13 +309,13 @@ pub extern "C" fn _start(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { // 新しい引数 } ``` -今までこの引数を無視していましたが、x86_64の呼出し規約は最初の引数をCPUレジスタに渡していたため、これは問題ではありませんでした。つまり、引数が宣言されていなかったとき、単に無視されていたわけです。しかし、もし引数の型を間違えてしまうと、コンパイラが私達のエントリポイント関数の正しい型シグネチャがわからなくなってしまうので、それは問題です。 +今までこの引数を無視していましたが、x86_64の呼出し規約は最初の引数をCPUレジスタに渡していたため、これは問題ではありませんでした。つまり、引数が宣言されていなかったとき、それが単に無視されていたわけです。しかし、もし引数の型を間違えてしまうと、コンパイラが私達のエントリポイント関数の正しい型シグネチャがわからなくなってしまうので問題です。 ### `entry_point`マクロ -私達の`_start`関数はブートローダから外部呼び出しされるので、私達の関数のシグネチャに対する検査は行われません。これにより、コンパイルエラーなしにあらゆる引数を取ることを許してしまい、いざ実行時にエラーになったり未定義動作を起こしてしまいます。 +私達の`_start`関数はブートローダから外部呼び出しされるので、私達の関数のシグネチャに対する検査は行われません。これにより、この関数はコンパイルエラーなしにあらゆる引数を取ることができるので、いざ実行時にエラーになったり未定義動作を起こしてしまいます。 -私達のエントリポイント関数が常にブートローダの期待する正しいシグネチャを持っていることを保証するために、`bootloader`クレートは[`entry_point`]マクロによって、Rustの関数をエントリポイントとして型チェックしながら定義する方法を提供します。私達のエントリポイントをこのマクロを使って書き直してみましょう: +私達のエントリポイント関数が常にブートローダの期待する正しいシグネチャを持っていることを保証するために、`bootloader`クレートは[`entry_point`]マクロによって、Rustの関数を型チェックしたうえでエントリポイントとして定義する方法を提供します。私達のエントリポイント関数をこのマクロを使って書き直してみましょう: [`entry_point`]: https://docs.rs/bootloader/0.6.4/bootloader/macro.entry_point.html @@ -333,7 +331,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { } ``` -このマクロが本物の`_start`エントリポイントをより低レベルに定義してくれるので、`extern "C"`や`no_mangle`をエントリポイントに使う必要はもうありません。`kernel_main`関数は今や完全に普通のRustの関数なので、自由に名前をつけることができます。そして重要なのは、これは型チェックされているので、間違った関数シグネチャ(例えば引数を増やしたり引数の型を変えたり)にするとコンパイルエラーが発生するということです。 +このマクロがより低レベルな本物の`_start`エントリポイントを定義してくれるので、`extern "C"`や`no_mangle`をエントリポイントに使う必要はもうありません。`kernel_main`関数は今や完全に普通のRustの関数なので、自由に名前をつけることができます。そして重要なのは、この関数は型チェックされているので、間違った関数シグネチャ(例えば引数を増やしたり引数の型を変えたり)にするとコンパイルエラーが発生するということです。 `lib.rs`に同じ変更を施しましょう: @@ -370,11 +368,11 @@ fn test_kernel_main(_boot_info: &'static BootInfo) -> ! { pub mod memory; ``` -このモジュールに合わせて`src/memory.rs`ファイルを作ります。 +また、このモジュールに対応するファイル`src/memory.rs`を作ります。 ### ページテーブルにアクセスする -[前の記事の最後][end of the previous post]で、私達のカーネルの実行しているページテーブルを見てみようとしましたが、`CR3`レジスタの指す物理フレームにアクセスすることができなかったためそれはできませんでした。前回の続きとして、`active_level_4_table`という、現在有効 (アクティブ) なレベル4ページテーブルへの参照を返す関数を定義するところから始めましょう: +[前の記事の最後][end of the previous post]で、私達のカーネルの実行しているページテーブルを見てみようとしましたが、`CR3`レジスタの指す物理フレームにアクセスすることができなかったためそれはできませんでした。この続きとして、`active_level_4_table`という、現在有効 (アクティブ) なレベル4ページテーブルへの参照を返す関数を定義するところから始めましょう: [end of the previous post]: @/edition-2/posts/08-paging-introduction/index.ja.md#peziteburuhenoakusesu @@ -443,7 +441,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { } ``` -まず、`BootInfo`構造体の`physical_memory_offset`を[`VirtAddr`]に変換し、`active_level_4_table`関数に渡します。つぎに`iter`関数を使ってページテーブルの全エントリに対してfor文を回し、[`enumerate`]コンビネータをつかってそれぞれの要素にインデックス`i`を追加します。全512エントリを出力すると画面に収まらないので、 (から) でないエントリのみ出力します。 +まず、`BootInfo`構造体の`physical_memory_offset`を[`VirtAddr`]に変換し、`active_level_4_table`関数に渡します。つぎに`iter`関数を使ってページテーブルのエントリをイテレートし、[`enumerate`]コンビネータをつかってそれぞれの要素にインデックス`i`を追加します。全512エントリを出力すると画面に収まらないので、 (から) でないエントリのみ出力します。 [`VirtAddr`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/addr/struct.VirtAddr.html [`enumerate`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html#method.enumerate @@ -517,7 +515,7 @@ pub unsafe fn translate_addr(addr: VirtAddr, physical_memory_offset: VirtAddr) /// Rustはunsafeな関数の全体をunsafeブロックとして扱ってしまうので、 /// unsafeの範囲を絞るためにこの関数はunsafeにしていない。 /// この関数をモジュール外から呼び出すときは、 -/// unsafeな関数を通じてのみ呼び出すこと。 +/// unsafeな関数`translate_addr`を使って呼び出すこと。 fn translate_addr_inner(addr: VirtAddr, physical_memory_offset: VirtAddr) -> Option { @@ -556,7 +554,7 @@ fn translate_addr_inner(addr: VirtAddr, physical_memory_offset: VirtAddr) 先程作った`active_level_4_table`関数を再利用せず、`CR3`レジスタからレベル4フレームを読み出すコードを再び書いています。これは簡単に試作するためであり、後でもっと良い方法で作り直すのでご心配なく。 -`Virtaddr`構造体には、インデクスから4つの階層のページテーブルを計算してくれるメソッドが備わっています。この4つのインデクスを配列に格納することで、これらを`for`ループを使って辿ります。`for`ループを抜けたら、最後に計算した`frame`を覚えているので、物理アドレスを計算できます。この`frame`は、forループの中ではページテーブルのフレームを指していて、最後のループのあと(すなわちレベル1エントリを辿ったあと)では対応する(物理)フレームを指しています。 +`Virtaddr`構造体には、(仮想メモリの)インデクスから4つの階層のページテーブルを計算してくれるメソッドが備わっています。この4つのインデクスを配列に格納することで、これらを`for`ループを使って辿ります。`for`ループを抜けたら、最後に計算した`frame`を覚えているので、物理アドレスを計算できます。この`frame`は、forループの中ではページテーブルのフレームを指していて、最後のループのあと(すなわちレベル1エントリを辿ったあと)では対応する(物理)フレームを指しています。 ループの中の話をします。前と同じように`physical_memory_offset`を使ってフレームをページテーブルの参照に変換します。次に、そのページテーブルのエントリを読み、[`PageTableEntry::frame`]関数を使って対応するフレームを取得します。もしエントリがフレームに対応付けられていなければ`None`を返します。もしエントリが2MiBや1GiBのhuge pageに対応付けられていたら、今のところはpanicすることにします。 @@ -604,7 +602,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { [_page offset_]: @/edition-2/posts/08-paging-introduction/index.ja.md#x86-64niokerupezingu -それぞれの物理アドレスは`physical_memory_offset`を足すことでアクセスできるわけですから、`physical_memory_offset`自体を(仮想アドレスとして)変換すると物理アドレス`0`を指すはずです。しかし、効率よく対応付けを行うためにここではhuge pageが使われており、これはまだサポートしていないので変換には失敗しています。 +それぞれの物理アドレスは`physical_memory_offset`を足すことでアクセスできるわけですから、`physical_memory_offset`自体を変換すると物理アドレス`0`を指すはずです。しかし、効率よく対応付けを行うためにここではhuge pageが使われており、これはまだサポートしていないので変換には失敗しています。 ### `OffsetPageTable`を使う @@ -612,7 +610,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { この抽象化の基礎となっているのは、様々なページテーブル対応付け関数を定義している2つのトレイトです。 -- [`Mapper`]トレイトはページサイズを型引数とする汎用型 (ジェネリクス) です。例えば、[`translate_page`]は与えられたページを同じサイズのフレームに変換し、[`map_to`]はページテーブルに新しい対応付けを作成します。 +- [`Mapper`]トレイトはページサイズを型引数とする汎用型 (ジェネリクス) で、ページに対して操作を行う関数を提供します。例えば、[`translate_page`]は与えられたページを同じサイズのフレームに変換し、[`map_to`]はページテーブルに新しい対応付けを作成します。 - [`Translate`] トレイトは[`translate_addr`]や一般の[`translate`]のような、さまざまなページサイズに対して動くような関数を提供します。 [`Mapper`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/trait.Mapper.html @@ -622,13 +620,13 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { [`translate_addr`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/trait.Translate.html#method.translate_addr [`translate`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/trait.Translate.html#tymethod.translate -これらのトレイトはインターフェイスを定義しているだけであり、その実装は何一つ提供していません。`x86_64`クレートは現在、このトレイトを実装する型を異なる要件に合わせて3つ用意しています。[`OffsetPageTable`]型は、全物理メモリがあるオフセットで仮想アドレスに対応していることを前提とします。[`MappedPageTable`]はもう少し融通が効き、それぞれのページテーブルフレームが計算可能などこかの仮想アドレスに対応していることだけを前提とします。最後に[`RecursivePageTable`]型は、ページテーブルのフレームに[再帰的ページテーブル](#zai-gui-de-peziteburu)を使ってアクセスするときに使えます。 +これらのトレイトはインターフェイスを定義しているだけであり、その実装は何一つ提供していません。`x86_64`クレートは現在、このトレイトを実装する型を異なる要件に合わせて3つ用意しています。[`OffsetPageTable`]型は、全物理メモリがあるオフセットで仮想アドレスに対応していることを前提とします。[`MappedPageTable`]はもう少し融通が効き、それぞれのページテーブルフレームが(そのフレームから)計算可能な仮想アドレスに対応していることだけを前提とします。最後に[`RecursivePageTable`]型は、ページテーブルのフレームに[再帰的ページテーブル](#zai-gui-de-peziteburu)を使ってアクセスするときに使えます。 [`OffsetPageTable`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/struct.OffsetPageTable.html [`MappedPageTable`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/struct.MappedPageTable.html [`RecursivePageTable`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/struct.RecursivePageTable.html -私達の場合、ブートローダは全物理メモリを`physical_memory_offset`変数で指定された仮想アドレスで物理メモリに対応付けているので、`OffsetPageTable`型を使えます。これを初期化するために、`memory`モジュールに新しく`init`関数を作りましょう: +私達の場合、ブートローダは全物理メモリを`physical_memory_offset`変数で指定された仮想アドレスで物理メモリに対応付けているので、`OffsetPageTable`型が使えます。これを初期化するために、`memory`モジュールに新しく`init`関数を作りましょう: ```rust use x86_64::structures::paging::OffsetPageTable; @@ -656,7 +654,7 @@ unsafe fn active_level_4_table(physical_memory_offset: VirtAddr) [`OffsetPageTable::new`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/mapper/struct.OffsetPageTable.html#method.new -可変参照が複数の名称を持つと未定義動作を起こす可能性があるので、以降`active_level_4_table`関数は`init`関数から一度呼び出されることを除いては呼び出されてはなりません。そのため、`pub`指定子を外してこの関数を非公開にしています。 +可変参照が複数の名称を持つと未定義動作を起こす可能性があるので、今後`active_level_4_table`関数は`init`関数から一度呼び出されることを除いては呼び出されてはなりません。そのため、`pub`指定子を外してこの関数を非公開にしています。 これで、自前の`memory::translate_addr`関数の代わりに`Translate::translate_addr`メソッドを使うことができます。これには`kernel_main`を数行だけ書き換えればよいです: @@ -697,11 +695,11 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { `MappedPageTable`型の変換関数を使うことで、huge pageをサポートする手間が省けます。また`map_to`のような他のページング関数も利用でき、これは次のセクションで使います。 -この時点で、自作した`memory::translate_addr`関数や`memory::translate_addr_inner`関数はもう必要ではないので、削除して構いません。 +この時点で、自作した`memory::translate_addr`関数や`memory::translate_addr_inner`関数はもう必要ではないので削除して構いません。 ### 新しい対応を作る -これまでページテーブルを見てきましたが修正はしていませんでした。対応のなかったページに対応を作ることで、ページテーブルを修正してみましょう。 +これまでページテーブルを見てきましたが、それに対する変更は行っていませんでした。ページテーブルに対する変更として、対応のなかったページに対応を作ってみましょう。 これを実装するには[`Mapper`]トレイトの[`map_to`]関数を使うので、この関数について少し見てみましょう。ドキュメントによると四つ引数があります:対応に使うページ、ページを対応させるフレーム、ページテーブルエントリにつかうフラグの集合、そして`frame_allocator`です。フレームアロケータ (frame allocator) (フレームを割り当てる (アロケートする) 機能を持つ)が必要な理由は、与えられたページを対応付けるために追加でページテーブルを作成する必要があるかもしれず、これを格納するためには使われていないフレームが必要となるからです。 @@ -741,14 +739,14 @@ pub fn create_example_mapping( } ``` -この関数は、対応付ける`page`に加え`OffsetPageTable`のインスタンスと`frame_allocator`への可変参照を引数に取ります。`frame_allocator`引数は[`impl Trait`][impl-trait-arg]構文により[`FrameAllocator`]トレイトを実装するあらゆる型の[汎用型][generic]になっています。`FrameAllocator`トレイトは[`PageSize`]トレイトを実装するなら(引数のサイズが)4KiBでも2MiBや1GiBのhuge pageでも大丈夫な汎用 (ジェネリック) トレイトです。私達は4KiBの対応付けのみを作りたいので、ジェネリック引数は`Size4KiB`にしています。 +この関数は、対応付ける`page`に加え`OffsetPageTable`のインスタンスと`frame_allocator`への可変参照を引数に取ります。`frame_allocator`引数は[`impl Trait`][impl-trait-arg]構文により[`FrameAllocator`]トレイトを実装するあらゆる型の[汎用型][generic]になっています。`FrameAllocator`トレイトは[`PageSize`]トレイトを実装するなら(トレイト引数のサイズが)4KiBでも2MiBや1GiBのhuge pageでも構わない汎用 (ジェネリック) トレイトです。私達は4KiBの対応付けのみを作りたいので、ジェネリック引数は`Size4KiB`にしています。 [impl-trait-arg]: https://doc.rust-lang.org/book/ch10-02-traits.html#traits-as-parameters [generic]: https://doc.rust-lang.org/book/ch10-00-generics.html [`FrameAllocator`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/trait.FrameAllocator.html [`PageSize`]: https://docs.rs/x86_64/0.14.2/x86_64/structures/paging/page/trait.PageSize.html -[`map_to`]メソッドは、呼び出し元がフレームはまだ使われていないことを保証しないといけないので、unsafeです。なぜなら、同じフレームを二度対応付けると(例えば2つの異なる`&mut`参照が物理メモリの同じ場所を指すことで)未定義動作を起こす可能性があるからです。今回、VGAテキストバッファのフレームという、すでに対応付けられているフレームを再度使っているので、この要件を破ってしまっています。しかしながら、`create_example_mapping`関数は一時的なテスト関数でありこの記事のあとには取り除かれるので、大丈夫です。この危険性 (unsafety) のことを忘れないようにするために、その行に`FIXME` (要修正) コメントをつけておきます。 +[`map_to`]メソッドは、呼び出し元がフレームはまだ使われていないことを保証しないといけないので、unsafeです。なぜなら、同じフレームを二度対応付けると(例えば2つの異なる`&mut`参照が物理メモリの同じ場所を指すことで)未定義動作を起こす可能性があるからです。今回、VGAテキストバッファのフレームという、すでに対応付けられているフレームを再度使っているので、この要件を破ってしまっています。しかしながら、`create_example_mapping`関数は一時的なテスト関数であり、この記事のあとには取り除かれるので大丈夫です。この危険性のことを忘れないようにするために、その行に`FIXME` (`要修正`) コメントをつけておきます。 `map_to`関数が`page`と`unused_frame`に加えてフラグの集合と`frame_allocator`への参照を取りますが、これについてはすぐに説明します。フラグについては、`PRESENT`フラグという有効なエントリ全てに必須のフラグと、`WRITABLE`フラグという対応するページを書き込み可能にするフラグをセットしています。フラグの一覧については、前記事の[ページテーブルの形式][_Page Table Format_]を参照してください。 @@ -781,11 +779,11 @@ unsafe impl FrameAllocator for EmptyFrameAllocator { } ``` -`FrameAllocator`を実装するのはunsafeです。なぜなら、実装する人は、作ったアロケータが未使用のフレームのみ取得することを保証しなければならないからです。さもなくば、例えば二つの仮想ページが同じ物理フレームに対応付けられたときに未定義動作が起こるかもしれません。この`EmptyFrameAllocator`は`None`しか返さないので、これは問題ではありません。 +`FrameAllocator`を実装するのはunsafeです。なぜなら、実装する人は、実装したアロケータが未使用のフレームのみ取得することを保証しなければならないからです。さもなくば、例えば二つの仮想ページが同じ物理フレームに対応付けられたときに未定義動作が起こるかもしれません。この`EmptyFrameAllocator`は`None`しか返さないので、これは問題ではありません。 #### 仮想ページを選ぶ -`create_example_mapping`関数に渡すための単純なフレームアロケータを手に入れました。しかし、このアロケータは常に`None`を返すので、対応を作る際に追加のページテーブルフレームが必要でなかったときにのみうまく行きます。いつ追加のページテーブルフレームが必要でありいつそうでないのかを知るために、例をとって考えてみましょう: +`create_example_mapping`関数に渡すための単純なフレームアロケータを手に入れました。しかし、このアロケータは常に`None`を返すので、対応を作る際に追加のページテーブルフレームが必要でなかったときにのみうまく動作します。いつ追加のページテーブルフレームが必要でありいつそうでないのかを知るために、例をとって考えてみましょう: ![A virtual and a physical address space with a single mapped page and the page tables of all four levels](required-page-frames-example.svg) @@ -794,17 +792,17 @@ unsafe impl FrameAllocator for EmptyFrameAllocator { また、この図はVGAテキストバッファの物理フレームを赤色で示しています。私達の目的は、`create_example_mapping`関数を使ってまだ対応付けられていない仮想ページをこのフレームに対応付けることです。私達の`EmptyFrameAllocator`は常に`None`を返すので、アロケータからフレームを追加する必要がないように対応付けを作りたいです。これができるかは、私達が対応付けにどの仮想ページを使うかに依存します。 -この図の仮想アドレス空間には、2つの候補となるページを黄色で示しています。ページのうち一つはアドレス`0x803fe00000`で、これは(青で示された)対応付けられたページの3つ前です。レベル4と3のテーブルのインデクスは青いページと同じですが、レベル2と1のインデクスは違います([前の記事][page-table-indices]を参照)。レベル2テーブルのインデクスが違うということは、異なるレベル1テーブルが使われることを意味します。そんなレベル1テーブルは存在しないので、もしこちらを使っていたら、使われていない物理フレームを追加(でアロケート)する必要が出てきます。対して、2つ目のアドレス`0x803fe02000`にある候補のページは、青のページと同じレベル1ページテーブルを使うのでこの問題は発生しません。よって、必要となるすべてのページテーブルはすでに存在しています。 +この図の仮想アドレス空間には、2つの候補となるページを黄色で示しています。ページのうち一つはアドレス`0x803fe00000`で、これは(青で示された)対応付けられているページの3つ前です。レベル4と3のテーブルのインデクスは青いページと同じですが、レベル2と1のインデクスは違います([前の記事][page-table-indices]を参照)。レベル2テーブルのインデクスが違うということは、異なるレベル1テーブルが使われることを意味します。そんなレベル1テーブルは存在しないので、もしこちらを使っていたら、使われていない物理フレームを追加(でアロケート)する必要が出てきます。対して、2つ目のアドレス`0x803fe02000`にある候補のページは、青のページと同じレベル1ページテーブルを使うのでこの問題は発生しません。よって、必要となるすべてのページテーブルはすでに存在しています。 [page-table-indices]: @/edition-2/posts/08-paging-introduction/index.ja.md#x86-64niokerupezingu -まとめると、新しい対応を作るときの難易度は、対応付けようとしている仮想ページに依存するということです。作ろうとしているページのレベル1ページテーブルがすでに存在すると最も簡単で、エントリを一つ書き込むだけです。ページがレベル3のテーブルすら存在しない領域にある場合が最も難しく、その場合まずレベル3,2,1のページテーブルを新しく作る必要があります。 +まとめると、新しい対応を作るときの難易度は、対応付けようとしている仮想ページに依存するということです。作ろうとしているページのレベル1ページテーブルがすでに存在すると最も簡単で、エントリをそのページに一つ書き込むだけです。ページがレベル3のテーブルすら存在しない領域にある場合が最も難しく、その場合まずレベル3,2,1のページテーブルを新しく作る必要があります。 `EmptyFrameAllocator`を使って`create_example_mapping`を呼び出すためには、すべての(階層の)ページテーブルがすでに存在しているページを選ぶ必要があります。そんなページを探すにあたっては、ブートローダが自分自身を仮想アドレス空間の最初の1メガバイトに読み込んでいるということを利用できます。つまり、この領域のすべてのページについて、レベル1テーブルがきちんと存在しているということです。したがって、試しに対応を作るときに、このメモリ領域のいずれかの未使用ページ、例えばアドレス`0`を使えばよいです。普通このページは、ヌルポインタの参照外しがページフォルトを引き起こすことを保証するために使用しないので、ブートローダもここを対応させてはいないはずです。 #### 対応を作る -というわけで、`create_example_mapping`関数を呼び出すために必要なすべての引数を手に入れたので、仮想アドレス`0`を対応付けるよう`kernel_main`関数を変更していきましょう。このページはVGAテキストバッファのフレームに対応付けているので、以後、画面に書き込むことができるはずです。実装は以下のようになります: +というわけで、`create_example_mapping`関数を呼び出すために必要なすべての引数を手に入れたので、仮想アドレス`0`を対応付けるよう`kernel_main`関数を変更していきましょう。このページをVGAテキストバッファのフレームに対応付けると、以後、画面に書き込むことができるようになるはずです。実装は以下のようになります: ```rust // in src/main.rs @@ -833,7 +831,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { まず、`mapper`と`frame_allocator`インスタンスの可変参照を渡して`create_example_mapping`を呼ぶことで、アドレス`0`のページに対応を作っています。これはVGAテキストバッファのフレームに対応付けているので、これに書き込んだものは何であれ画面に出てくるはずです。 -次にページを生ポインタに変更して、オフセット`400`に値を書き込みます。このページの最初に書き込むとVGAバッファの一番上の行になり、次のprintlnで即座に画面外に流れていってしまうのでそれはしません。値`0x_f021_f077_f065_f04e`は、白背景の"New!"という文字列を表します。[VGAテキストモードの記事][in the _“VGA Text Mode”_ post]で学んだように、VGAバッファへの書き込みはvolatileでなければならないので、[`write_volatile`]メソッドを使っています。 +次にページを生ポインタに変更して、オフセット`400`に値を書き込みます。このページの最初に書き込むとVGAバッファの一番上の行になり、次のprintlnで即座に画面外に流れていってしまうので、それを避けています。値`0x_f021_f077_f065_f04e`は、白背景の"New!"という文字列を表します。[VGAテキストモードの記事][in the _“VGA Text Mode”_ post]で学んだように、VGAバッファへの書き込みはvolatileでなければならないので、[`write_volatile`]メソッドを使っています。 [in the _“VGA Text Mode”_ post]: @/edition-2/posts/03-vga-text-buffer/index.ja.md#volatile [`write_volatile`]: https://doc.rust-lang.org/std/primitive.pointer.html#method.write_volatile @@ -842,7 +840,7 @@ QEMUで実行すると、以下の出力を得ます: ![QEMU printing "It did not crash!" with four completely white cells in the middle of the screen](qemu-new-mapping.png) -画面の"New!"はページ`0`への書き込みによるものなので、ページテーブルへの新しい対応付けの作成が成功したということを意味します。 +画面の "New!" はページ`0`への書き込みによるものなので、ページテーブルへの新しい対応付けの作成が成功したということを意味します。 この対応付けが成功したのは、アドレス`0`を管轄するレベル1テーブルがすでに存在していたからに過ぎません。レベル1テーブルがまだ存在しないページを対応付けようとすると、`map_to`関数は新しいページテーブルを作るために`EmptyFrameAllocator`からフレームを割り当てようとしてエラーになります。`0`の代わりに`0xdeadbeaf000`を対応付けようとするとそれが発生するのが見られます。 @@ -862,7 +860,7 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { panicked at 'map_to failed: FrameAllocationFailed', /…/result.rs:999:5 ``` -レベル1テーブルのまだ存在しないページを対応付けるためには、ちゃんとした`FrameAllocator`を作らないといけません。しかし、どのフレームが未使用で、どのフレームが利用可能かはどうすればわかるのでしょう? +レベル1テーブルがまだ存在していないページを対応付けるためには、ちゃんとした`FrameAllocator`を作らないといけません。しかし、どのフレームが未使用で、どのフレームが利用可能かはどうすればわかるのでしょう? ### フレームを割り当てる @@ -898,9 +896,9 @@ impl BootInfoFrameAllocator { この構造体は2つのフィールドを持ちます。ブートローダによって渡されたメモリマップへの`'static`な参照と、アロケータが次に返すべきフレームの番号を覚えておくための`next`フィールドです。 -[_Boot Information_](#boot-information)節で説明したように、このメモリマップはBIOS/UEFIファームウェアから提供されます。これはブートプロセスのごく初期にのみ取得できるので、ブートローダがそのための関数を呼ぶようになっています。メモリマップは`MemoryRegion`構造体のリストからなり、この構造体はそれぞれのメモリ領域の開始アドレス、長さ、型(未使用、予約済み、など)を格納しています。 +[_Boot Information_](#boot-information)節で説明したように、このメモリマップはBIOS/UEFIファームウェアから提供されます。これはブートプロセスのごく初期にのみ取得できますが、ブートローダがそのための関数を既に呼んでくれています。メモリマップは`MemoryRegion`構造体のリストからなり、この構造体はそれぞれのメモリ領域の開始アドレス、長さ、型(未使用か、予約済みかなど)を格納しています。 -`init`関数は`BootInfoFrameAllocator`を与えられたメモリマップで初期化します。`next`フィールドは`0`で初期化し、フレームを割当てるたびに値を増やすことで同じフレームを二度返すことを防ぎます。メモリマップのusable (使用可能) なフレームが他の誰かに使われたりしていないかは知ることができないので、この`init`関数はそれを呼び出し元に追加で保証させるために`unsafe`でないといけません。 +`init`関数は`BootInfoFrameAllocator`を与えられたメモリマップで初期化します。`next`フィールドは`0`で初期化し、フレームを割当てるたびに値を増やすことで同じフレームを二度返すことを防ぎます。メモリマップのusable (使用可能) とされているフレームが他のどこかで使われたりしていないかは知ることができないので、この`init`関数はそれを呼び出し元に追加で保証させるために`unsafe`でないといけません。 #### `usable_frames`メソッド @@ -932,7 +930,7 @@ impl BootInfoFrameAllocator { この関数はイテレータのコンビネータメソッドを使って、最初に与えられる`MemoryMap`を使用可能な物理フレームのイテレータに変換します: - まず`iter`メソッドを使ってメモリマップを[`MemoryRegion`]のイテレータに変える。 -- 次に[`filter`]メソッドを使って、予約済みなどの理由で使用不可能な領域を飛ばすようにする。ブートローダは作った対応付けに使ったメモリマップはきちんと更新するので、私達のカーネル(コード、データ、スタック)に使われているフレームやブート情報を格納するのに使われているフレームはすでに`InUse` (使用中) などでマークされています。そのため`Usable`なフレームは他の場所では使われていないはずとわかります。 +- 次に[`filter`]メソッドを使って、予約済みなどの理由で使用不可能な領域を飛ばすようにする。ブートローダは作った対応付けに使ったメモリマップはきちんと更新するので、私達のカーネル(コード、データ、スタック)に使われているフレームやブート情報を格納するのに使われているフレームはすでに`InUse` (`使用中`) などでマークされています。そのため`Usable`なフレームは他の場所では使われていないはずとわかります。 - つぎに、[`map`]コンビネータとRustの[range構文][range syntax]を使って、メモリ領域のイテレータからアドレス範囲のイテレータへと変換する。 - つぎに、アドレス範囲から[`step_by`]で4096個ごとにアドレスを選び、[`flat_map`]を使うことでフレームの最初のアドレスのイテレータを得る。4096バイト(=4KiB)はページのサイズに等しいので、それぞれのフレームの開始地点のアドレスが得られます。ブートローダのページは使用可能なメモリ領域をすべてアラインするので、ここで改めてアラインや丸めを行う必要はありません。`map`ではなく[`flat_map`]を使うことで、`Iterator>`ではなく`Iterator`を得ています。 - 最後に、開始アドレスの型を`PhysFrame`に変更することで`Iterator`を得ている。 @@ -944,7 +942,7 @@ impl BootInfoFrameAllocator { [`step_by`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html#method.step_by [`flat_map`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html#method.flat_map -この関数の戻り型は[`impl Trait`]機能を用いています。こうすると、`PhysFrame`をitemの型として持つような[`Iterator`]トレイトを実装する何らかの型を返すのだと指定できます。これは重要です――なぜなら、戻り値の型は名前のつけられないクロージャ型に依存し、具体的な名前をつけるのが**不可能だ**からです。 +この関数の戻り型は[`impl Trait`]機能を用いています。こうすると、`PhysFrame`をitemの型として持つような[`Iterator`]トレイトを実装する何らかの型を返すのだと指定できます。これは重要です――なぜなら、戻り値の型は名前のつけられないクロージャ型に依存し、**具体的な名前をつけるのが不可能**だからです。 [`impl Trait`]: https://doc.rust-lang.org/book/ch10-02-traits.html#returning-types-that-implement-traits [`Iterator`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html @@ -969,7 +967,7 @@ unsafe impl FrameAllocator for BootInfoFrameAllocator { [`Iterator::nth`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html#method.nth -この実装は割当てを行うごとに`usable_frames`アロケータを作り直しているので、あまり最適ではありません。イテレータを構造体のフィールドとして直接格納するほうが良いでしょう。すると`nth`メソッドを使う必要はなくなり、割り当てのたびに[`next`]を使えばいいだけです。このアプローチの問題は、今の所構造体のフィールドに`impl Trait`型(の変数)を格納することができないことです。いつの日か、[named existential type][_named existential types_]が完全に実装されたときにはこれが可能になるかもしれません。 +この実装は割当てを行うごとに`usable_frames`アロケータを作り直しているので、最適とは言い難いです。イテレータを構造体のフィールドとして直接格納するほうが良いでしょう。すると`nth`メソッドを使う必要はなくなり、割り当てのたびに[`next`]を使えばいいだけです。このアプローチの問題は、今の所構造体のフィールドに`impl Trait`型(の変数)を格納することができないことです。いつの日か、[named existential type][_named existential types_]が完全に実装されたときにはこれが可能になるかもしれません。 [`next`]: https://doc.rust-lang.org/core/iter/trait.Iterator.html#tymethod.next [_named existential types_]: https://github.com/rust-lang/rfcs/pull/2071 @@ -993,8 +991,8 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { ブート情報を使うフレームアロケータのおかげで対応付けは成功し、白背景に黒文字の"New!"が再び画面に現れました。舞台裏では、`map_to`メソッドが不足しているページテーブルを以下のやり方で作っています: -- 渡された`frame_allocator`を使って未使用のフレームを割り当てる。 -- フレームをゼロで埋め、新しい空のページテーブルを作る。 +- 渡された`frame_allocator`を使って未使用のフレームを割り当ててもらう。 +- フレームをゼロで埋めることで、新しい空のページテーブルを作る。 - 上位のテーブルのエントリをそのフレームに対応付ける。 - 次の層で同じことを続ける。 @@ -1004,15 +1002,15 @@ fn kernel_main(boot_info: &'static BootInfo) -> ! { ## まとめ -この記事ではページテーブルのある物理フレームにアクセスするための様々なテクニックを学びました。恒等対応、物理メモリ全体の対応付け、一時的な対応、再帰的ページテーブルなどです。このうち、シンプルでポータブル(アーキテクチャ非依存という意味)で強力な、物理メモリ全体の対応付けを選びました。 +この記事ではページテーブルのある物理フレームにアクセスするための様々なテクニックを学びました。恒等対応、物理メモリ全体の対応付け、一時的な対応、再帰的ページテーブルなどです。このうち、シンプルでポータブル (アーキテクチャ非依存) で強力な、物理メモリ全体の対応付けを選びました。 ページテーブルにアクセスできなければ物理メモリを対応付けられないので、ブートローダの補助が必要でした。`bootloader`クレートはcargoのfeaturesというオプションを通じて、必要となる対応付けの作成をサポートしています。さらに、必要となる情報をエントリポイント関数の`&BootInfo`引数という形で私達のカーネルに渡してくれます。 -実装について。最初は手作業でページテーブルを辿ることで変換関数を実装し、そのあとで`x86_64`クレートの`MappedPageTable`型を使いました。また、ページテーブルに新しい対応を作る方法や、そのために必要な`FrameAllocator`をブートローダに渡されたメモリマップをラップすることで作る方法を学びました。 +実装について。最初はページテーブルを辿る変換関数を自分の手で実装し、そのあとで`x86_64`クレートの`MappedPageTable`型を使いました。また、ページテーブルに新しい対応を作る方法や、そのために必要な`FrameAllocator`をブートローダに渡されたメモリマップをラップすることで作る方法を学びました。 ## 次は? -次の記事では、私達のカーネルのためのヒープメモリ領域を作り、それによって[メモリの割り当て][allocate memory]や各種の[コレクション型][collection types]を使うことが可能になります。 +次の記事では、私達のカーネルのためのヒープメモリ領域を作り、それによって[メモリの割り当て][allocate memory]を行ったり各種の[コレクション型][collection types]を使うことが可能になります。 [allocate memory]: https://doc.rust-lang.org/alloc/boxed/struct.Box.html [collection types]: https://doc.rust-lang.org/alloc/collections/index.html